
まず自己紹介をすると、昭和41年鹿児島県生まれ、実家は農家でその三男です。揖斐郡北西部地域医療センターに赴任して13年になりますが、今の専門はこの地域。揖斐とそこに住む人たちを専門としています。
私は本当に田舎育ちでうちでは牛を5、6頭飼っていて、小学生の頃は山に芝刈りに行ったり、田植えの時季には手伝いのために学校を休まされました。小さい頃は体が弱かったので近くの医者によく時間外受診や往診をしてもらっていて、その先生(鹿児島弁で「いまびゅいしゃろん」)は学校医もされていたので、ちょっと憧れのようなものを感じていました。


そういう普通の町医者になりたいと思って宮崎医大に入ったのですね。ところが大学の医学部ではそういった教育は皆無に等しい状況でした。そんなときにたまたま自治医大に「地域医療学教室」があることを知り、そこで研修を受けることにしました。
その時の指導医が故五十嵐正紘先生(主任教授)で私の生涯の師匠ですが、五十嵐先生から、現場へ行くこと、体験することが重要であること、また知識・技能・態度という3つを考えたときに、家庭医、ジェネラリストはまず「態度」から学ぶことが大事だということを教わりました。
地域医療のススメは、今から10年ほど前に協会内の指導医・研修医がワークショップを重ね、「地域医療を担う医者になるためにはどんな要素が必要か?」を議論して、またオレゴン健康科学大学のテイラー先生ご夫妻らの協力も得ながらみんなで作り上げました。さらにこの1、2年で日本プライマリ・ケア連合学会の専門医認定を意識してカリキュラムを整備しました。その結果メンター制やチーフレジデント制、ネット会議での振り返りやポートフォリオ勉強会なども取り入れ、へき地にいても指導医やプログラム修了生とコミュニケーションをとりやすいように配慮しています。
実際の研修について言うと、一般に研修指導場面では指導医が前面にでる感じだと思いますが、実は先生役は看護師だったり、事務の女性スタッフだったり、あるいは患者さんだったり、患者さんのお父さんだったりという、隠れた先生役がセットになって教育の環境が提供できています。そこには表現しにくいけれど今の医療にとって、とても重要なことが満載で学ぶことの宝の山になっているような気がしています。地域医療を担う組織としての25年の蓄積と各地の地域(人々と暮らし全部をふくめたもの)が実は教育のための資源になっている。それが地域医療振興協会の教育サイトの特徴だと思います。
他の家庭医療・地域医療後期研修プログラムでは、もしかしたら「患者中心の医療」とか、McWhinneyのFamily Medicineとか、EBMといったいわば武器をたくさん学んでから地域の現場へ出るという方法をとっているところが多いのではないかと思います。でも協会の研修はそういうことを勉強するより先にいきなり先輩たちがいる地域に放り込まれる。そこでまず「態度」を学び、それから少しずつ武器となるものを勉強していくという感じです。なんだかスマートではない、泥臭い野武士のようなイメージがありますが、一緒に悩み一緒の時間を過ごすことで「言語化できない大切なもの」をとりこぼすことなく学ぶことができるような気がしています。その具体的な作戦開発はまだ緒についたばかりですが、とても楽しいと確信しています。


各教育サイトによってやり方は違うと思いますが、揖斐郡北西部地域医療センターではスタッフみんなが教育に関わります。実習生はほぼ常時来ていて、研修医だけでなく看護学生、理学療法学生、介護福祉学生などのコメディカル、そして医学生の実習など合わせて10人近くいることもあります。朝礼でその日の研修内容を割り当てます。外来を担当する人、看護師と一緒に訪問へ向かう人、あるいは老健の入所者の介助を手伝う人等々、一人ずつ課題が与えられます。
教えるというよりも一緒に学んでもらうという感じでしょうか。まずは体験してもらって、どうしたらよいか分からなかったら自分で調べてみる。他のスタッフに知恵をもらう。私も「どう?」と声をかけます。「どう?」と尋ねられて答えるために考える。そのやりとりからもきっと学ぶものがあると思います。


「置き去り実習」も揖斐の研修の中で特徴的なものと言えます。研修生を訪問診療に伴った際に患者さんの様子がちょっと心配だったり、患者さんの家族が疲れているかなと思ったときに、「君、今からここに居て患者さんと話をしててね」と研修生を患者さんのところに置き去りにするのです。むちゃぶりとも言われています。そんなときはもちろん患者さんが指導者役です。初めは緊張で固まっていた研修生もおきざりにされている間に、いろいろな話を聞き自分も話し、少し変化して帰って来ます。もしかしたら翌日の外来にはそれが活きるかも知れません。
最近は多職種間連携教育(IPE:Inter Professional Education)にも力を入れています。一人の患者さんに多くの職種が一緒に関わることで、異なった視点の気付きがあると思っています。
これはほんの一例です。ぜひ実際に協会の地域医療研修を体験してください。